中塚大輔式ブランド開発法 シュウ ウエムラ化粧品を例に

Philosophy.

ブランドは、どこから生まれるか。シュウ ウエムラ化粧品を例にとりながら、中塚大輔式ブランド開発法の一端をご紹介できたら、と思う。2007年、夏。

Mission.
根がへそ曲がりで偏屈なものだから、好き嫌いが激しい。意に染まない仕事は引き受けないかわり、やるとなったら、どこまでもやる。ブランディングという言葉がはやって、猫も杓子もブランドになびいた時、私の感想はそんなやり方は、私の場合、何十年も前から実践している、というものだった。それはさておき、ブランドって、一体誰がつくるのだろう。社内か社外か。トップか現場か。はたまた商品やサービスを享受する消費者か。そのへんの認識というか、気構えがないまま、皆、右往左往している。

Spirit.
この文章を、現場の一クリエイターとして書いている。ある程度以上の大きな仕事を受ける時、企業のトップに会ってお話を聞けないか、一応たずねてみる。スムーズに会えて、会話が弾み、いいエピソードがトップの口からポロポロ出てくるようなら、仕事は八割がた出来たといっていい。ちょっと僭越な言い方になるが、私は、その製品を使う生活者の代理として、その場に来ているのだ。私は、トップをはじめ、その会社で働く人々の精神を、言葉を介してシャワーのように浴びたいのだ。

Symbol.
シュウ ウエムラ化粧品の創業者、植村秀氏に初めて会ったのは、1980年だった。世田谷の雑木林が残る広い庭には、ガラスとコンクリートで出来た白い家がたっており、その居間が、面接会場だった。ハリウッド式のメイクアップルームや、彼の名前を刻んだ、黒い化粧鞄をみせてもらったが、いつか同席した植村夫人と、険悪な雰囲気になっていた。ちょっとした言葉の行き違いが原因で、誤解がとけてみれば、皆で大笑い。危機を救ったのは、植村氏の機知だった。ブランドの核心は生身の彼自身なった。

Talent.
シュウ ウエムラが一般にいくらかでも知られるようになったのは、1983年以降である。この年、シュウ ウエムラは、表参道に50坪をこす自社ブランド専用の大型店開店し、一気にブレークした。世界中には数万にも及ぶ化粧品メーカーがあるだろうに、この規模のお店がいままでになかったとは…。すべては、メイクアップ・アーティストとして日米を往復した植村氏の悲願であり、野心であり、きれいに言えば、女性への愛であった。コンセプトは、ハリウッドの化粧室を、一般女性に開放する、だった。

Word.
ブランディングの専門家は、企業のビジョンやブランド価値は、はっきり明文化すべきだと、説いている。その言葉に従い、書いてみる。社名は、表参道オープンの前に一新して、現行のシュウ ウエムラ化粧品とした。マークは、将来の制約を予感して設定せず。書体は、装飾性を感じさせないものとした。企業精神は、革命。女性の顔と化粧品を変える。ビジョンは、プロの化粧品やメイクを広く一般に公開する。ブランド価値は、アートとサイエンスの融合。言葉は、多少違うが、大体こんなところである。

Face.
店舗づくりをブランド戦略の大きな柱とするシュウ ウエムラは、1996年には日経流通新聞のOL対象の好感度調査において、国内メーカーでは資生堂、コーセーに続いて第3位。「センスが良い」の項目では、堂々トップに立った。ブランド戦略のもうひとつ大きな柱は、商品とそのパッケージだった。パッケージデザインのコンセプトは、シンプル&リッチ。透明容器あるいは無彩色の外箱を基本とし、過剰な装飾性を控えている。カラフルな化粧品の中身を引き立てるには、この方がいいのだ。

Stage.
シュウ ウエムラのコピーは、植村氏の発言として書かれている場合が、多い。ビジュアルも、はっきりいって甘くない。男性的とも見える。それなのに、何故、成功したか。いま振り返ると、鍵は、プロフェッショナル性にあると思う。美容業界におけるプロとは、お客さまをどれだけ美しく、気持ちよくできるか。鏡の前でお客さまの気持ちにあわせて、一緒に踊れるかどうか。そうした意味では、物事のはじめから生活者本位である。シュウ ウエムラの未来は、この現代的価値を再構築できるかどうかに係かっている。

株式会社中塚大輔広告事務所

103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-33-8 Tel.03(3663)5608 Fax.03(3663)5622 E-mail:info@nakatsuka-inc.com
代表取締役 クリエイティブ・ディレクター 中塚吐夢 取締役 アート・ディレクター 松田澄子 プロデューサー 中塚万次郎 グラフィック・デザイナー 宮澤知里 グラフィック・デザイナー 佐久間祐子 顧問 中塚大輔 顧問 中塚純子 参考書籍:「シュウ ウエムラ−顔と化粧品を変えた人」(女性モード社) 「中塚大輔・広告の魂」(現代企画室)ともに著者は、中塚大輔。 協力:フォトグラファー 前田洋伸 フォトグラファー 伊島薫 ウェブデザイナー 小林けい